三日目 オーロラの爆発
 最後の夜となった。昨夜殆ど見れなかったのと、今までも撮影が失敗していたのでちょっと気持
ちが萎えてしまっていた。結論から言えば、この日も失敗してしまった。普段使っていない完全な
マニュアルカメラを使ったのだが、昼間はセミオートのカメラを使った為にレンズの絞りをオート
設定のまま付けていて全部露出不足になっていたのだ。
  
 不安な気持ちのまま観測地に向かう。着いた時にもオーロラは出ていなかった。月明かりでぼん
やりとした暗い夜空を見上げていたら、すこしづつ薄いものが見え始めた。月が無ければもう少し
ははっきり見えるのになどと思って眺めていたが、寒くなってきたので一旦ロッジに引き上げた。
今日も駄目かなと言った感じで、買い物に行く者、温かい飲み物を飲む者、少しだれ気味だった。
 
 暫らく暖を取ってから空を見上げていると何か様子がおかしい。下から細いが明るい光が出てい
る。「これはオーロラが出るぞ。」そう直感して急いでセッティングに走った。普通はこんな極寒
の地で激しい運動をするのは危険なので、口をマフラーで覆いながら走った。到着すると間もなく
オーロラが出現した。「これはいけるぞ。」次第に光が強くなり、成長し始めている。静かだった
観測地に活気がみなぎって来た。記念写真のカメラマンも忙しくなってきた。妻が記念写真を申し
込んだと言うので、そちらに行かなければならなくなったが、その間にもドンドン成長を続けてい
る。待っている時間がとても永く感じる。凄い勢いで成長し、ガンガン動き始めた。強いグリーン
の光を放ち、時々赤い光も見える。ついに赤いオーロラを見る事が出来た。撮影の順番が来たが、
気持ちはそれどころではない。オーロラに背を向けて30秒止まっていなければいけない。昔のカメ
ラじゃあるまいに・・・
  
 記念撮影をしているうちにも激しく動いている。待っている人はオーロラを見ているので、成長
するたびに歓声を上げる。こちらは振り向くわけにも行かず、固まった状態で時間が経つのを待つ
ばかりだ。一番良い所を見逃すのではないかと言う気持ちが起きますね。それと、せっかく撮るの
だからマスクやマフラーを外しているので、たった30秒と言えどもメチャクチャ寒いんです。鼻は
痛くなるし、口元は凍えるしで大変でした。
  
 下の写真が、その時にツアーと契約しているカメラマンにとって貰った記念写真です。
右側の写真の向って左が後からお見せするこの時のオーロラの写真を送ってくれた下川さんです。
彼女の写真が無かったら、このページは出来なかったでしょう。本当に感謝しています。
 ようやく撮影が終ってまたカメラのところへ走っていった。それからが凄い事になってきた。空
中のあちらこちらにオーロラが出現し、エッジが鋭く光りだしたのである。そして、横へ、上へ、
下へと伸びてゆく。やがて丸い輪のように繋がったと思えば、カーテンが伸びながら下へと降りて
来たりと、もうその勢いは止まらない。まるで龍が大空を駆け回っているようだった。グングンこ
ちらに近づいてくるようにも見えた。とても全体を見渡す事など出来ないほどだったので、雪の上
に大の字になって寝転がり空全体を見た。360℃、空全体がオーロラで埋まっていた。観測地全体
から歓声が上がっている。もう、みんな興奮状態だ。「これだ!これが見たかったんだ!」心の中
で叫んだ。ほんの10分くらいだっただろうか。ひょっとしたら2〜3分の事だったのかも知れない。
カメラマンに聞くと、これは「爆発」と言う状態だそうだ。テレビの中だけだと思っていたものが
見れた。貴重な経験でした。
  
 その後オーロラは落ち着きゆっくりとした動きで浮かんでいたのだが、人は慣れると恐ろしい物
であんな凄い物を見てしまうと、昨日は見れなくて悲しい思いをした事も忘れて少々のオーロラで
はロッジに引き上げて温まろうと考えてしまう。明日は帰るだけで、こんなに出現しているのも珍
しいし、もう一度起きたら悔しいから2時間の延長を申し込んだ。通常が1時までなので3時まで見
れる事になる。ホテルに着くと3時半にはなり、明日は4時半にモーニングコールで5時半出発なの
で荷物の整理を考えると今夜は徹夜という事になる。移動の機内で少し寝れば良いかと腹をくくっ
た。が、みんなの弛んだ気持ちを見破ったのか、延長時間になる頃にはオーロラは姿を消してしま
った。このままでは帰って仮眠を取った方がましと言うことになる。ただ、さっき撮った写真はチ
ケットを持って申し込みに行き、お金を払ってはじめて作業にかかる為に受取りは延長時間ぎりぎ
りになる。延長していない場合は、翌日係りの人からもらう事になるので、延長したおかげで当日
渡してもらえることになる。
  
 ようやく2時位からオーロラが現れ始めて最後の別れを惜しんでくれているようだった。それから
もぼんやりと出ていたものの、さっきのような激しいものは出なかった。オーロラに見送られなが
らバスでホテルへと向った。3時40分位にホテルの到着して荷物の整理を済ませると殆ど出発時刻
に近づいていた。借りていた防寒着をロビーにおいてチェックアウトを済ませ、係りの人が来るの
を待った。今回はフリーでオーロラの観賞を申し込んだ為に、ただ観に行くだけだと思っていたの
だが、出迎えから見送りまで面倒を見てくれた。これは本当に助かった。搭乗手続きを済ませて、
乗り継ぎや荷物の受取りの事まで丁寧に説明してくれた。これは値段以上のものに思えた。
  
 7:15 イエローナイフを出発。エアカナダ系列のファースト・エアーの朝食は到着時と違い暖か
かった。1時間半の短いフライトなので、離陸するとすぐに朝食が出る。その後のドリンクサービス
もあり、この短い時間の中で実に手際良くこなしていた。まさに「ファースト・エアー」だなと馬
鹿な事を考えていた。
  
 9:00 エドモントン到着。僕達はツアーの人と別れて次の目的地であるNYへと向った。
  
  
 最後にお待ちかねの下川さんから貰ったオーロラの写真を掲載します。